本の話

『収容所から来た遺書』-仲間で繋ぎ届けた一人の想い-

映画、「ラーゲリより愛を込めて」が気になり、原作である『収容所から来た遺書』を読みました!

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映画は苦手なので本で読むスタイル…!

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収容所から来た遺書 (文春文庫) [ 辺見 じゅん ]
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あらすじ

第二次世界大戦敗戦後、ソ連軍に囚われた山本幡男。

山本は収容所(ラーゲリ)で強制労働をさせられいた。

極寒に、飢餓に、重労働。

その上、差別や暴力が横行していた。

いつ日本に帰れるのか、見通しの見えない暗闇の中でみんなが希望を失うなか、山本だけは日本に帰れると希望を捨てず、仲間を励まし続けた。

勉強会や句会を作り、いつか生きて日本に帰ることを諦めてはいけない、と伝え続けた。

しかし、収容所に入れられて5年目、山本は喉の痛みを訴え入院となる。

そして、徐々に病状は悪化していき…。

ここからはネタバレ注意!

敗戦後、ソ連の収容所(ラーゲリ)に強制連行された男たちの物語。

帰国を信じ、その強い信念を最後まで曲げることのなかった山本幡男の生涯です。

ラーゲリでの強制労働

収容所、捕虜といえば強制労働ですね。

劣悪な環境の中文字通り死ぬまで働かされます。

また、厳しいノルマもあり、達成できることはほとんどなく、ただでさえ少ない食事がらに減らされる始末。

食事はひどく、黒パンに具がほとんどないスープ、砂糖が小さじ一杯支給されるだけ。

ちなみにこの黒パン、酸っぱくて美味しくないそうです。

しかし、ラーゲリ内ではこの世で一番うまいものになると言うのだから恐ろしい。

さらに、当たり前のように暴力が横行していたよう。

特に山本はロシア語が堪能だっだけにスパイと疑われひどいリンチにあったことも。

そんな中、希望を捨てないだけでもすごいのにさらに周りの同じ日本人捕虜を慰め、奮い立たせ、時には手を貸していたと言うのだから…。

極限状態でそんな風に振る舞える人間が果たしてどれだけいるのでしょう。

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ちなみに、読んでいて驚いたのは50歳以上は高齢なので屋内作業だったとのこと。

今の感覚では50歳なんてまだまだ若い!と言う印象なので高齢化が進んでいるな〜と実感しました。

勉強会や句会

「生きて帰るのだという希望を捨てたらじきに死んでしまうぞ。頭を少しでも使わんと、日本に帰っても俘虜ボケしまったら使いものにならんからね」

収容所に入れられ、強制労働を強いられている中で、日本へ帰ると言う希望を失わないよう、勉強会をしよう、と同じ境遇の松野を誘った時のセリフです。

帰国なんかできない、と捨て鉢になるものや、腹を満たすことしか考えられないものが多数の中、この提案には非常に驚いき、新鮮に響いたそうです。

山本は勉強会で万葉集や仏教について語り、またその話が非常に面白く、それを聞いている間はラーゲリにいることを忘れてしまうほどだったとか。

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他にも演劇などしていたそう。極限状態で人を思いやれるって…すごすぎる!

そして、病に倒れ…

その後、喉の痛みを訴え入院した山本は徐々に衰弱していきます。

ラーゲリ内の状況は変わり、日本に手紙を送れることにはなります。

山本は「子どもたちは大丈夫か。子どもたちに必ず良い教育を受けさせてやってくれ」と妻のモジミに繰り返し伝えますが、自分の病状についてはいっさい触れませんでした。

収容所ではもちろん、満足な治療どころか診断すら受けられません。

仲間たちがソ連へ何度も請願書を出した結果、ようやく山本は中央病院への入院ができました。

しかし、翌日には退院となって戻ってきます。

山本は咽頭癌性肉腫と診断され、入院しても手遅れだ、とのことでした。

どんどん腫れあがり大きくなる首の腫瘍。

顔よりも大きくなるほどで、もう絶望的でした。

そんな中、仲間の1人が苦渋の決断の上、山本に告げます。

「万が一を考えて、奥さんやお子さんたちへ言い残すことがあれば書いておいてほしいんだ。」

つまり、もう死ぬであろうから遺書をかけ、と言うことです。

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今まで「日本に帰れる!」と励まし続けてくれた山本さんにこれを伝えるのはきっと辛かったと思う…。

山本の死と、遺書

そして、山本は遺書を書き残し息を引き取ります。

仲間たちは、なんとしてもこの遺書を遺族に届けなければ、と奮起します。

収容所では、紙に文字を残すことはご法度で、すぐに取り上げられてしまいます。

文字を残すことは、スパイ行為とみなされたからです。

そこで仲間たちは、山本の遺書を暗記して日本に持ち帰ることにしました。

日本に帰れることすら夢のまた夢、そんな中きっと日本に帰って山本の言葉を家族に届ける、そんな強い気持ちを持って…。

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みんな山本さんのことが大好きで、本当は遺書なんて書いてほしくもなくて、一緒に帰りたかった、家族と再開して、日本で死にたかった…。そんな思いが伝わります。さて、遺書は山本さんの家族の手に渡ったのでしょうか…。結果はぜひ読んでみてください!

感想

たった数十年前の出来事なんだ。

読んで後そう思うと本当にゾッとしました。

人を人と思わない扱いを当たり前のようにしていた時代。

まともな食事を与えず強制労働、死んだら弔うこともせず土に埋める。

それが、ほんの数十年前。

恐ろしいですよ。本当に。

今の時代に生まれたから現実味がないけれど、これが現実だった人は確かにいるんです。

『夜と霧』を読んだ時も思いましたが、こんな極限状態でも、人としての尊厳を損なわない人はいる。

とても強い人たち。

自分も辛いのに、人を励まし、手を差し伸べ、自分が損しても構わない…。

そしてそんな人だからこそ、みんなに慕われてなんとか遺書を届けたい、届けなければ、と強い団結力を生み出す。

死んでからも仲間に影響を与えていますよね。

そんな強い気持ちが、きっと解放までの生きる原動力になったんじゃないかなと思います。

そして、山本の妻もすごくて…。

夫が帰ってこない中、必死で働いて山本の望み通り子どもたちにきちんとした教育を受けさせて…。

母親として、尊敬しかないです。

戦争によって、かくも人生を狂わされた人々。

それがなければ、もっと違う人生を歩めただろうなと思うと、胸が痛いです。

そして、決してこの本は対岸の火事ではなく、現代でも起こり得ることかもしれません。

平和は尊い。

今、こうやって家族と普通の日常を暮らせることがどんなに幸せなことか。

今一度考えさせられた作品でした。

興味があったら、ぜひ読んでみてください!

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いつ帰れるかわからない、そんな状態できっと帰れると信じて過酷な日々を過ごした人がいる。大昔の話ではなくたった数十年前の話です。同じこと決して繰り返さないように、私たちには何ができるでしょうか。考えることってとっても大事。

 

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